「ねぇ、来週どこか行かない?」



 それは、本当に幸せな     



「わり、来週は親の実家に戻ることになってて…」



 大切な時間だったのに…。


「そん代わり帰ってきたら、何処でも好きなところ連れてってやるよ」
「ホント!?じゃああたし遊園地に行きたい!」


 自分から提案したクセに、彼の表情は冴えない。というかむしろ嫌そうな雰囲気がプンプンしている。


「なによ、何か不満?」
「遊園地って、お前…」
「いいじゃん。二年も付き合ってて一回も行ったことないんだよ?しかも本当なら来週が記念日なのに…」
「…っ、わぁったよ。遊園地だな?忘れんじゃねェぞ?」
「忘れないようにするのはそっちでしょ!」


 うっ、と短く声を詰まらせた彼に愛しさが湧く。



 それなのに、あたしの頬に伝うは    涙。


 付き合い始めの頃、二人で撮った写真を手にベッドへ横たわる。…どうやら長い間眠っていたらしい。辺りはすっかり明るくなり、外からは子供達の明るい笑い声が聞こえる。

 目を擦ると、頬に違和感を感じた。

 そっとそこへ触れると、涙の伝った跡が乾ききっている。真っ白な天井を視界から遮るように手で覆うと、あたしは震える声で彼の名を紡いだ。




     虎徹…っ」




 その名が愛しい。

 あの笑顔が愛しい。

 あの、憎まれ口が、どうしようもなく愛おしい。


 彼の帰りを心待ちにしていたあたしに飛び込んできたのは、あの元気な声ではなく…彼の友人から届いた訃報だった。遺産の取り分を増やしたい叔父が、線路に突き落としたのが最期      即死だったそうだ。



 けれど彼は生きている。


 目を閉じれば    ほら。

 彼が、笑っている。



「なん、で…」


 声が震える。


「遊園地に、行くって…約束したの、にっ…」


 嗚咽が込みあげる。
 目が覚め、手にした写真を目にする度自覚する    彼の死。

 それでも手放せない写真は、写真嫌いの彼が一緒に撮った…たった一つの思い出。手放せるわけがない。


 忘れれば楽になるのは知っている。けれど忘れてしまいたくなかった。

 憎まれ口を叩きながらも、楽しかった日々を。

 ぶっきらぼうだけど、全身で伝えてくれた<好き>を。


 未来があった虎徹に選択肢も与えず、死に落とされた辛さを考えれば苦にもならない。


「…虎徹、言ってたもんね。辛いことは分け合うんだって…」







 だから、ほら。



 あたしは今日もまた目を閉じる。







 夢で出会う。









 悲恋話、白兎より。
 あそこのシーンを読んだ時は絶句してましたね。「虎徹が…」みたいな。


 09/07/03 執筆