昼のピーク時を終え、がらんとした店内。
 母が急遽病院に運ばれた友人の代わりに立つは、今や全国各地に点在するコンビニのレジだ。この店は店員でない者を代理人として雇ってくれる特殊な寛大な店らしい。
 自宅は呉服店を営んでいるためアルバイトなどしたことはないが、やってみると(酒を飲んで絡んでくる輩を覘けば)案外楽しい。


(今度社会勉強とか何とか言って、やってみようかなぁ)


 何よりこの時間帯は、独り身の老人などが話し相手を求めて来店するらしい。無論若者も訪れる為、混雑を予想してもう一人ベテランのアルバイトが入っていた。あたしはさしずめ身代わり地蔵と言ったところか。

(まぁ、それでも良いんだけどね…)


 そしてまた一人、涼しい店内に来店する。
 そちらに笑顔を向け、歓迎しようとして、



        言葉に詰まった。



 中性的だが端正に整った綺麗な顔立ち。

 羨ましくさえなる線の細さと白い肌。

 店の入り口にスケボーを立て掛け、雑誌コーナーの前に立つ。何を読むという訳ではなく、ただ立っているだけ。…かと思えばぶらりとお菓子コーナーの所へ入り、ラムネというラムネを籠に放り込んでいく。


(ラムネ、好きなんだなぁ)


 そんな事をぼんやり考えていると、いきなり目が合った。


(え)


 そしてそのまま真っ直ぐこちらへやってきた。


「い、いらっしゃいませ」
「見つけた」
「…へ?」


 何を見つけたのか。ピストルの形に作られた指が差すのは、間違いなく私だ。疑問に感じ首を傾げると、可愛らしい笑みを浮かべて笑った。そして籠をレジに置き、空いた手の指をパチンと鳴らした。


「…え」

 その手の中に現れたのは…事務所の鞄に入っている筈の、あたしの学生証だった。手品のようなそれにあたしは恐怖心など感じず、ただただ感激していた。

「凄い!今のどうやったんですか?」
「…」


 あたしの質問が単純すぎたのか。一瞬ぽかんとした後、苦虫を噛み潰したような微妙な顔に豹変した。それはもう可愛い顔が台無しだと言わんばかりに歪められている。
 もう少し気の利いた切り返し方が出来れば良かったのに、と狼狽していると。


「成る程…ゼロイチの好きそうなタイプだね」
「え…?」


 …その呼び名は。

 あたしが数ヶ月前に知り合って以来仲良くしている人    桜庭零一の事だとすぐに分かった。彼と親しくなってから数日後。呼び名について話し合った際、”ゼロイチ”とだけは絶対に呼ぶな、と念押しされたことがある。
 それは生涯の天敵を思い出すから…という理由なのだそうだが。


「もしかして零一君の天敵って…」
「アッハハ!うんまぁゼロイチにはそうかもね。僕としては友人のつもりなんだけど…あ、会計お願いします」
「あ、ハイ!」


(やっぱり男の子なんだ…)

 なんて見当違いな考えを持っていたのは、目の前の彼には内緒だ。
 細々としたラムネを一つずつレジに通していくのは、正直面倒だが楽しい。危うく鼻歌が混じりそうになるところをすんでの所で抑え、黙々と袋に詰めていく。その様子をじっと見ていた彼は、袋詰めが半分終わったところで唐突に問うてきた。


「キミの前ではゼロイチってどんな感じ?」
「どんなって…普通だと思いますけど」

 零一君はアルバイトで生計を繋いでいる為、多忙な生活を送っている。けれど本人は真面目な性格で、臨時で出て欲しいという店長の頼みにも嫌な顔一つせずに応じる。
 ただしそれは何か約束がなかった場合。
 以前一週間前から私と出かける約束をしてた日に同じような臨時バイトの電話が来たこともあったが、先約があるからと断ったことがある。

 そんな他愛のないエピソードを連ねていく。初めは興味を失ったように聞いていたが、途中から外見からは想像できない程ゲラゲラと笑っていた。


「ゼロイチ馬鹿っぽーい!」
「…あ、あの」
「んー?」
「貴方は、零一君の…お友達なんですよね?」


 さっき零一君にとっては天敵で、彼にとっては友人だと言っていた。旧知の仲なのだろう、お互いを称する言葉に遠慮はない。男同士の友情というのは女同士のより淡泊だとは言うけれど、それとは何か違うような…。


 そこまで考えて、ふと感じる肌寒さ。
 それは決して冷房の所為などではない。


       目の前の青年から発せられた空気だ。


 そしてそれに似た空気を纏うのは、零一君も同じ。

 一緒にいて、笑い合ってる時でさえ、


 …ふと感じる、冷たい空気。


「あ、の…」
「お姉さんも感受性が強いみたいだね」
「え…?」
「ごめんね、ちょっと暑くてイライラしてたんだ」
「はぁ…」


 彼は金を払うと、袋いっぱいに詰まったラムネを受け取った。

「ゼロイチとは、そうだなぁ…腹に一物抱えた友人ってトコかな」
「…」
「ふふ、それじゃお仕事頑張ってね     さん」


 不敵な笑みと共に、彼は去っていった。
 先程感じた冷気は既に消え、残っているのは元より漂うクーラーの冷気。狐に抓まれたかのような感覚とはこういうことを言うのだろうか。



 あたしは、その場でしばらくの間、呆けてしまっていた。








 ちょっと変わってるけれど



                       彼の親友。






 途中から何が書きたいのか分かんなくなってきたので、とりあえず完結…!(無理矢理だなオイ)

 秋は綺麗で可愛くて楽しいと思いますが、実際にいたら怖い人だと思う。…私だけ?亜銀はチキンなので本気でビビります。


 09/06/19 執筆