日差しの眩しい初夏。


 全ての授業を終えて、あたしの足は自然とグラウンドに向かっている。熱中症にならないようキンキンに冷えたスポーツドリンクとタオルを、昼食を購入した際に貰ったビニール袋に詰め込む。
 一日通して日の当たらない絶好のポイントに腰掛ける姿は手慣れたものである。あたしの眺める先では野球部が準備運動に声を挙げている。みんな体柔らかいなぁなんて見てたら、普段いるはずの人物が見当たらない。


(あれ、今日は監督いないのかな?)


 いつもは「このタコ!」とか「やる気あんのか!?」とか何かしらの怒号が飛んでいるものだが、今日はそれが全くといって良いほど無い。これを言ったら監督に怒られるかもだけど、グラウンドを見る限り部員達はどこかリラックスしているように見える。グラウンドの周回コースを走るのも楽しそうで、じゃれ合っている姿もちらほら見えた。


(ふふ、いいなぁ楽しそうで)


 中でもムードメーカーの本やんと慎吾は、後輩にも大人げなく勝負を挑んでいるらしく。奇声を発し全力疾走している。その様子にあたしは相好を崩すと、膝を抱えるようにして座り直した。


「あ! 先輩だぁー!」


 語尾にハートでも付いていそうな位嬉々とした声を挙げるのは、1年生の利央。キラキラした瞳とふわふわした髪が子犬のようで、尻尾まで振っているように見えるから不思議だ。前に一度頭をわしゃわしゃと撫で回したら、やめて下さいよーっと言って半泣きした事がある。本当に可愛いったら(←S)。


「今日もここで見てるんですかー?」
「うん、日焼けしないし。利央こそ練習混じらなくて良いの?」
「べ、別にサボってる訳じゃないですっ。ただ練習前にじゃんけんに負けたから、3年生の分ドリンク買ってきたんですよー」


 そう言って掲げた両手には、袋いっぱいに詰められたジュース。そんな彼を見てあたしはとても哀れに思えた。彼がジャンケンをする際、必ず始めにチョキを出すのは部員全員が知っている。その所為で毎回パシリに使われているというのに、本人はまだ気付いていないのだから驚きだ。
 本っっ当に馬鹿なんだから(超笑顔)


「あ、それじゃあ俺戻りますね!」
「ん、頑張ってねー」
「はいっ!」


 ブンブンと手を振りながら一気に土手を駆け下りていく。転ぶなよーと苦笑しながらその姿を目で追っていくと、視線の先には。


(…あ)


 あたしが毎日ここを訪れる理由が其処に、いる。
 彼は利央からジュースを受け取ると二三話した後、あたしの存在に気付いたらしくコチラへ猛ダッシュしてきた。


(わ、わわ…っ)


 隠れられそうな所をついつい探してしまうけれど、見晴らしの良いここにはそんな都合のいいところがある訳無く。取り敢えず逃げも隠れもできそうにないので、腹をくくりその場で大人しくしている。


「何だ、いたんだ」
「うん…。ね、今日監督いないの?」
「うん。他校の視察だって」
「ふーん。でもそういう時って和さんも行くもんじゃないの?」
「和己を置いておかないと、みんなが何するか分かんないんだってさ」
「あはは!圭輔含めて、みんな信用無いんだねー」
「それほどでも」
「いやいや、全っ然褒めてないから」


 空気よく笑いあう。同じクラスの圭輔は2年生の時から同じクラスで、本やん同様すごく仲が良い。こうやってちょくちょく野球部の練習を見に来ているから、レギュラーメンバーに限らず野球部の人間とは仲が良いのだけれど。
 どうにも圭輔の隣は緊張してしまう。


 練習で流した汗を拭い帽子で仰ぐ姿に、



       目を奪われる。




「あ、そだ。はいコレ」
「あ、ありがと…」

 ついさっき利央が買ってきたジュースを一本手渡される。あたしがずっと前に好きだと言った梅ホワイトだ。カルピスに梅の果汁が入ったもので、周囲の認知度は恐ろしく低い。コンビニの冷蔵庫で見つけても、いつも隅っこに追いやられている存在……でもあたしは好き!

 渡されたそれは自分のよく冷えたジュースとは比べものにならない温さだけど、その気持ちが嬉しくてたまらない。おそらく赤くなっているであろう顔を隠すようにジュースを一気に呷る。梅の酸味とカルピス風味の甘さがすごく美味しい。やっぱり好きだなぁ、なんて思っていると隣の空気が動いた。


「さっき利央ここに来てたっしょ?」
「うん」
「何話してたの?」
「へ?大した話してないよ?練習行かなくていいのーとか、またジャンケン負けたーとか」
「ふぅん」


 自分で訊いたクセに反応は悪く、帽子を顔に乗せたまま寝転がる。ふと違和感を感じて自分の手を見ると、彼の手が掠めていた。それだけの事であたしの全神経はそこに集中する。終いには心臓までがそこに移動してしまったのはないかと錯覚する程、手が、ドクドクと鼓動を刻んでいる。


(あたし、絶対顔真っ赤だ…っ)


 反対側の手で頬に触れる。けれど彼には悟られないよう平静を装いグラウンドを眺めていると、後輩達のじゃれ合う声に掻き消されることなく彼の声が届く。



「ねー、
「ん?」
「オレさ、の事好きなんだけど、どうしたらいい?」




 …。




 ………。




 …………………ハイ?




「ぇえエエエっっ!?!?」
「ハハっ。うん、まーそういう反応だろうと思ったけど」
「だ、だって。………、冗談、じゃないの?」
「冗談なんかじゃないよ」

 よっ、と声を挙げ勢いよく起き上がる。普段から冗談なのか本気なのかイマイチ分かりにくい表情の彼が、あたしの顔を覗き込むように顔を近付けてくる。


「ね、どうしたらいい?」
「ど、どうしたら、って…」
「どうしたらオレの事好きになってくれる?」



       やばい。

 やばいやばいどうしよう…っ。


 乗りだしてきた身から何とか距離を取ろうと思ったけど、後退りしている内にあたしの体は木の幹へと追い込まれて。



(どうしよう…っ…)


 まさかこんな展開になるとは思わなかった。

 毎日毎日圭輔見たさに通ったグラウンド。二年越しの想いは遠巻きに見ているだけで満足してた。誰かが冗談で言ってた…圭輔の恋人は<野球>    それをどこかで信じて安堵していたあたしを、こんな形で裏切るなんて…。


「…ずるい」
「んぁ?何が」
「知らない!圭輔ずるい…っ」
「はは、何その反応。メチャクチャ可愛いんですけど」
「!?」


 ああ、もう。

 そんな眩しい笑顔で笑うなんて。



「…圭輔」
「はいよ?」
「あたし、…ずっと前からもう、圭輔のこと好き、だったよ?」



 蚊の鳴くような声でやっとそれだけ搾り出すと、恥ずかしさに俯く。赤面を隠すように口元を覆うと、圭輔は嬉しそうな息を漏らしたあと勢いよく立ち上がり…。





「和己ー!オレ今チョー幸せーっっ!」
「ちょっとヤダ!何叫んでんの、っていうかみんなにもろバレじゃない!!」
「へへへー」
「もー馬鹿アアァァアア!」

 穴があったら入りたい、いやいっそ埋めて欲しい…ッ!(アアァ)
 グラウンドの方から後輩達の祝福の声と、同級生達の冷やかしが混ざった声が聞こえて。真っ赤になったであろう顔を隠すのも忘れて、至極満足そうに笑む圭輔を睨め上げる。




「どうせならチューとかしちゃう?」




 日差しの眩しい初夏。

 青空の下に、頬を打つ乾いた音が響いていた。












 「準太の真似〜」な山ノ井氏が大好き。

 梅ホワイトは実際に存在してました。もう無いんだろうな…。亜銀の高校時代、近くの文房具店に設置されている自動販売機にあったのですが、恐らくもう廃盤商品なんでしょう。
 自動販売機で当たりが出たのは、あの時が最初で最後かも…ショボン。

 春から第二期始まるとあってテンション挙がりっぱなしです★イェー


10/03/08  執筆