何か今日はおかしい。









 ナビの実験をさせて貰おうと熱斗君の家に行けば”出掛けちゃったのよォ”と熱斗母。
 ならばと訪れたIPCではお留守番を任されていた秘書さんに”副社長は不在です”と送り返された。
 ライカはまだシャーロ国にいるみたいだし、メイルちゃんもやいとちゃん達とおでかけ……





誰もいないじゃんよ。




「何で?」
「ハブられたか?」
「そんな訳………………………」



 …あってもおかしくはない。
 あたしは初対面の人間であろうとナビを見せてもらって、気に入ったナビであれば実験対象にする癖がある。別に痛みを感じさせる様な実験はしていないし、オペレーターも嫌がっている様子は見せていなかったから気にした事もなかったのだが       万が一という事もある。

 思い当たる節があるだけに強く反論はできない。そんなあたしを見てレイが軽く舌打ちした。


「あいつらの事だ、任務にでも行ってんだろ?」
「そ、っかな…」
「ネットセイバーやってる事は周囲の人間には極力話さないよう義務づけられてンだ。あのバンダナ野郎はアホみたいに言い触らしてるけどな」
「あはは、確かに」


 まあみんなが居ないんじゃあ仕方ない。
 遊ぶのは暇な人間にしよう。









「…という事で来ちゃった♪」
「帰れ!俺達は暇じゃねぇんだよ、このクソガキ!」
「何よそれー!ちょっとマハさんこのヒノケンの態度、店員としてどうなの!?」
「うむ、接客という点では最悪といっても良いでしょうな」
「だってさ、ざまみろヒノケン」
「〜〜〜〜〜〜っっ!マハ・ジャラマ…まさかコイツの肩持つってのか!?」
「オ客様ハ神様デス」
「棒読みじゃねェか!」


 MaHa壱番亭。
 熱斗君のライバル   デカオ君一押しのカレー屋さん。科学省、IPC本社に次いであたしの溜まり場所になっている店でもある。


「ところでエレキ伯爵は?」
「アァ?伯爵なら…」
「あごひげには聞いてない。ねぇマハさん、伯爵どこ?」
「…顎髭!名前の原型とどめてねぇじゃねェか!」
「(軽くシカト)今営業に行ってマスから、もうすぐ帰るでショウ」
「営業って…サラリーマンみたい(笑)」
「お前らそこまでシカト続けるとかなり嫌味だぞ!?」

 口惜しそうに拳を振り上げ抗議するヒノケンに”敢えてやってるんだから大成功じゃん”という嘲笑を送ると、正確に意味を汲み取ったらしく勝負を仕掛けられた。ネットバトルなら負ける気がしない、しかも相手はヒノケン!(かなり失礼)

 勝負を受けようと腕をまくったそのときだった。
店の入り口が開いて誰かが入ってきた。お客さんだったら店の印象が悪くなってマハさんに迷惑がかかるからそこは大人しくしたが、あたしはその人物を視界に入れると      飛びかかった。 



「エレキ伯爵ーーーーーーっっ!!」

「ワァオ!また来ていたのカ!?」
「うん来てた来てた相変わらず趣味悪い服着てるねってことで伯爵には用はないから挨拶もほどほどにしてさぁPETを差し出せ☆
「オゥなんて横暴なんだ!将来良い借金取りになれるぞ!大体そんなんでこのワタシがワカリマシタっていうと思ってるのカ?」


 そう、何を隠そうエレキ伯爵に交渉して既に38回目。結果は全敗…あたしお目当ての本人に聞く前にオペレーターで拒否。非情すぎる。


 しかし今度ばかりはそうはいかせない。今日こそは彼をアレする為に!(妙な伏せ方)


「ふっふっふ、今日こそは会わせてもらうわよ…何せ前回敗北して以来毎日寝る前に考えて、最近になってようやく叶った策だもの。今回の策には強力な助っ人が協力してくれてるから負ける気がしないわ!」
「ホゥ?その成果を見せてもらおうじゃないカ!」
「…いいわよ?」


 今回も負ける気がしない、とどかっと椅子に腰掛けたエレキ伯爵に近付くと、あたしは結っていた髪を解き、ちょこっと弄ってから伯爵の肩に手を掛けた。





      ね、おじちゃん…ダメ?」


「「「!!?!?!?!」」」



 一瞬場の空気が凍り付く。あたしって演技派ね!
マハさんは聞かなかった事にしてるし、ヒノケンはいきなり店を飛び出した(そこまで拒否せんでも)。


 肝心の伯爵はというと…。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それが得策?」
「エ、嘘、不満?”伯爵はロリコンだからロリキャラでいけばオチる!”って断言してたのに…」
「ちなみに助っ人って?」

「伯爵夫人」
「!!?!?!?!」


 伯爵夫人。
 気が強くてエレガントで、あたしのメル友だ。そして伯爵の…一生頭の上がらない奥さん。


「これでオチなかったって報告したら夫人哀しむ(怒る)だろうなぁ…。次会う時は夫人に横にいてもらうしかないかも…(脅迫)」
「このPETを今すぐお納め下サイ!」
「ぃやったぁぁああああっっ!」

 PETを放り投げんばかりの勢いで伯爵の手から奪い取る。エレキ伯爵に阻まれて38回目、ようやくあたしはお目当ての彼と面会を果たした。
 一番隅の席で暗雲を背負ったエレキ伯爵を余所にPETを覗き込むと、オペレータを多少気遣うように苦笑したナビがいた。


『相変わらずだな、
「エレキマンもね。何ヶ月ぶりだっけ?」
『アメロッパから帰ってきた時だから…3ヶ月ぶりだな』
「伯爵さえ強情じゃなければもっと早く会えたのに…」
は一応ネット警察とも関係のある人間なんだ…我慢してくれ』


 まぁ、確かにそうなんだけどね。伯爵にも1回目チャレンジの時そんな事言われた気がするけど、エレキマンに言われるとすんなり納得できちゃうのが不思議。これぞ愛の力(恥)。
 まあ何はともあれエレキマンは貸してもらえたから、あたしは次の行動に移る事にした。自分のカバンの中に手を突っ込み、目当ての物を手にすると、店の鍵をして小声で言った。


「今からすることは警察にも科学省にも教えてない、個人研究の成果だから極秘でヨロシク」
「それハ?」




       ディメンショナルチップ、スロットイン!」

「「…え?」」





 ◆






         …で?」
「ん〜?」




「それが、の研究成果?」
「うん♪」


 それ、とは。

 本来PETやネットシティでの活動に制限されているナビ。一時期WWW(ワールドスリー)やゴスペル、Dr.ワイリーやDr.リーガルといった犯罪者が関わっていた事件で世間に蔓延したダークチップ。科学省は、ダークロイドやウイルスを実体化させる目的でつくられたダークディメンショナルチップを何枚か没収し解析を進めていたのだが、何分ダークチップの解析は難しい。
 下手に手を伸ばすと、解析するパソコンの中にウイルスが流れたりダーク因子が染みこんでしまう。科学者達も手を焼いていたのだ。

 けれどあたしのナビ   レイはダーク因子に敏感な為、最低限の影響さえ受けずに解析、加工できる。その成果として出来上がったのが、ディメンショナルチップだ。世間に広まればウイルスや犯罪者が狙ってくる事は目に見えている為、仲間や家族にさえ秘密にしていた。


「ワタシ達も元犯罪者って事忘れてナイですか?」
「奪われない絶対の自信があるからバラしたの。エレキマンにも会いたかったし」
「……っっ」
「こらエレキマン、何赤くなってるンだっっ!!」


 おまけ…というよりそちらが本命であろう目的を、恥ずかしがる様子もなく言い放ったの代わりにエレキマンが青い肌を紅潮させた。ちょうど大きな椅子に二人    エレキマンの首に手を回した状態で座っている為、その赤い顔はにもすぐ分かった。


「〜〜〜っっ、エレキマン可愛いーーーーーー!!(ハート乱舞)」
か、かわっ?!ちょ…、訂正してくれッ、可愛いって何だ!」
「だってこんな真っ赤なエレキマン見た事ないもん、すっごい可愛い♪」
「う、嬉しくない……」
「えーなんで?あたし言われたら嬉しいよ?」
「それはが女の子だからだろう?」
「…そんなもん?」
「そんなものだ」

 よくわからないけど、エレキマンが言うのだからそうなんだろう。男の子って難しい。
 抱きしめる手を少し強めると、エレキマンの大きくて綺麗な目がこちらを見る。それが何だか恥ずかしくてエレキマンの胸に顔を埋める。


  そうすると、ほら。


      


 エレキマンの大きな手が、あたしの頭を優しく撫でてくれる。ナビとは思えないほど暖かく柔らかい手。



「…ね、エレキマン」
「ん?」




「すき」
「え…」


「だいすき」



 …気持ちが溢れてくる。

     長い間会えなかったから?

 抱きしめたから?

 頭で理解するよりも体が動くんだと思う。


「ね、エレキマン。もっとぎゅーってして?」
「し、しかし…」
「だめ?」
「!」

 愛しい人からの懇願に断れる訳がない。
 抱きついたままでも分かる、緊張。割れ物を扱うかのように恐る恐る添えられた手は、微かに震えていた。それに応えるようにあたしは、それよりも強く彼を抱きしめた。それにようやくエレキマンも慣れてきたのか、少しずつ力を入れて抱きしめてきた。

 それがとっても嬉しくて。


「ね、エレキマン」
「ん?」


「エレキマンは可愛いけど、とーっても格好いいよ」
「…は?」



「あたしが今まで見た中で一番男前だし、可愛いし、かっこいいの」


 そう自信もって言えば。


「〜〜〜〜〜〜っっ!!」


 あたしに顔を見られないように、より一層腕に力を込めてくる。それがもう愛しくて。


 …オペレーターの伯爵が、無関係を装っていた事にさえ気付かなかった。











         後日。
 ”俺はロリコンなんかじゃねえええェェェエエエエっっ!!”と叫び、顔を青ざめさせたり赤くさせたりと、挙動不審なヒノケンの姿がMaHa壱番亭にあったそうな。












(哀れなヒノケンを書くのは楽しい(最悪))